
日本の中小企業では慢性的なIT人材不足が課題となっています。経済産業省が2021年に発表した報告書によると、2030年には約79万人のIT人材が不足するという試算があります。また、2024年の帝国データバンクの調査では、正社員の不足を感じている企業の割合は全体の51.0%、特に情報サービス業、ITエンジニアの領域では71.9%の企業が不足感を覚えています。
多くの企業が人材育成や労働条件の改善など対策を進めていますが、DXの推進や開発ニーズが高まっている背景があり、改善の見通しは立っていません。こうした中、注目されているのが「外国人IT人材」の採用です。外国人エンジニアの起用は人材不足の解消に留まらず、多様な視点によるイノベーション創出というビジネス価値をもたらします。本記事では、多様な人材から構成される組織やチームが企業にどのような革新的な効果が生み出されるのか、異なる文化やバックグラウンドを持つ人材の活用が成長にどのような影響を与えるのか、経営者の視点で解説します。
外国人採用:ダイバーシティの経営効果

近年、企業経営においてダイバーシティ(人材の多様性)が重視されています。米BCG(ボストンコンサルティンググループ)が実施した調査によると、経営陣の多様性が高い企業ほどイノベーションによる収益割合が大きいことが示されています。性別、年齢、国、学歴、経歴、業界等6つの要素で「多様性」を見た場合、その割合が平均以上の企業は過去3年以内に導入した新商品や新サービスから生まれる売上の割合は45%、平均より低い企業は26%と、19ポイント高い結果が報告されています。さらに、多様性が高い企業の営業利益率(EBIT)は低い企業と比較すると9ポイント高い相関性も示されています。このように多様な組織はイノベーションや業績の向上につながることが裏付けられています。
出典:How Diverse Leadership Teams Boost Innovation
他の調査でも同様の傾向が見られます。マッキンゼーが2019年に実施した調査研究でも、経営層のジェンダー多様性が高い企業は平均より利益率が25%高い可能性があることが報告されています。
出典:How diversity, equity, and inclusion (DE&I) matter | McKinsey
また、ハーバード・ビジネス・レビューの分析によれば、社員の多様性が高い企業は低い企業に比べて新規市場を獲得した割合が約70%高いという結果も報じられています。つまり、多様な人材を受け入れることは、新しい市場機会の開拓や収益性の向上にも寄与するということが示唆されます。これらのデータは、外国人を含む多様な人材の活躍が単なる理念や仮説ではなく、実際のビジネス成果に直結する強力な要因であることを示しています。
外国人IT人材採用の成功事例

実際に外国人IT人材の採用によって新たなアイデア創出や競争力強化につながった企業の事例も見てみましょう。
- 楽天株式会社(日本)国内大手IT企業の楽天は、社内公用語を英語に切り替える大胆な戦略で知られています。海外の優秀なエンジニアを積極的に受け入れた結果、多国籍な人材が混ざり合ったチームで新サービスのアイデアが次々と生まれ、楽天のグローバル展開を一気に加速させたと言われます。
- Google(米国): グローバル企業のGoogleは世界中からトップエンジニアを採用し、多様性とグローバルな視野を重視しています。ただ技術スキルを見るだけでなく、異文化コミュニケーション能力や文化的適応力も重視して採用しているのが特徴です。Googleでは異なる文化的背景を持つエンジニアの独自の視点が、新しいアイデアの発掘や問題解決につながり、イノベーションを促進するとされています。実際、多様なバックグラウンドを持つ人材が加わることで、社内には従来にない発想やソリューションが生まれています。
- Amazon(米国): Amazonもグローバル市場で成功するために、多様な国籍のITエンジニアを積極採用しています。世界各地に事業を展開する同社にとって、さまざまな文化や言語を理解できる人材は競争力維持の要です。外国籍エンジニアの持つ言語・文化知識や海外でのビジネス経験は、新規市場への進出時に大いに役立ち、結果的にAmazonのグローバルなビジネス展開を支援し競争優位性を高めています。
- パナソニック株式会社(日本): 製造業の老舗であるパナソニックも、エンジニアリング部門で外国人採用を推進した企業の一つです。グローバル展開する製品・サービス開発のため、多様な視点を持つエンジニアを積極的に登用し、社内に多文化なチームを構築しています。その結果、海外市場のニーズに沿った製品開発や新事業創出において競争力を発揮しています。
- 地方都市の中小企業(日本):関西にある平均年齢が40代後半の製造業の企業では、29歳の男性ネパール人エンジニアを初めて採用したところ、英語も使いながら社員同士の対話が以前より2倍以上に増えたそうです。英語勉強の習慣も生まれ、何より会社全体が明るくなり、風土改革の大きな一歩にもなっています。
これらの事例から分かるように、外国人IT人材の採用は単に人手を補うだけでなく、自社にない発想や知見を取り入れることで新規アイデアを生み出し、競争力を向上させる効果があります。多様なメンバーが交わることで「当たり前」を疑う文化が生まれ、従来の延長では出てこない革新的なサービスや製品が生み出されるのです。政府も外国人雇用への助成金制度を設ける等、後押ししています。
外国人材の活用:メリットの検証

異なる文化や経験を持つ人材は、企業にとって成長の原動力になり得ます。外国籍人材は専門性に加えて、異なるバックグラウンドや経験を持つがゆえに、新しい視点で問題解決にアプローチできるといいます。これは社内の思考の偏り(いわゆる「グループシンク」)を打破し、より創造的なソリューションを生み出す土壌となります。実際に、彼らのアイデアや専門知識を活用することで企業は競争力を高め、市場でのリーダーシップを築くことができるとも言われています。
さらに、多様な人材がいる組織では社員同士が互いの文化や価値観を尊重し学び合う機会が増え、組織全体の柔軟性と適応力が向上します。例えば、新しい技術トレンドへの対応や海外市場へのビジネス展開においても、語学力に加えて、外国籍の人材の知見があることで取り組みやすくなるでしょう。
こうした「文化的多様性」×「柔軟性ある社風」の組み合わせは、社員のエンゲージメント向上や優秀人材の定着にもつながります。多様性を受け入れ活かす企業文化が醸成されれば、社員一人ひとりが自分らしさを大切にして能力を発揮できるため、生産性や創造性が高まり結果的に企業の持続的な成長を支える要素となるのです。
経営者が知っておきたい外国人採用時のポイント

外国人IT人材の採用に踏み切る際、経営者や人事担当者にはいくつかの懸念や課題が浮上するかもしれません。典型的な課題と解決策・成功のための取り組み例をまとめます。
- 言語の壁への対策: 「日本語ができるだろうか」「英語でコミュニケーションできるか」という不安は多いでしょう。解決策としては、楽天のように社内公用語を英語にすることは難しくても、外国人社員向けに日本語研修を提供することや、日本語でのランチ会や業務外の交流の機会を作る事で、外国人社員の語学力は一気に高まります。業務中、不安な場合は、日本語の場合は短い文書で補足したり、自動翻訳ツールの活用も有効です。お互いが意思疎通するための意欲を高め、安心・安全な職場環境を整えることで、言語の壁を徐々に下げていくことです。
- ビザ・法制度の手続き支援: 海外から人材を招くには就労ビザ取得など法的な手続きが必要です。手続きは「複雑で難しいのでは?」という懸念があります。二人目、三人目と慣れてきたら自社で手続きするのも良いですが、ビザ取得を支援する専門的な支援サービスを活用する方法もあります。例えば、最新の入管法制の情報に基づき、必要書類準備や行政とのやり取りの業務を代行してもらうことで、企業側の受け入れもスムーズになり、外国人社員も安心して就業が開始できるでしょう。受け入れ体制を整えるまでの期間、このような外部の専門サービスを利用するのも有効かもしれません。
- 文化の違いへの適応: 異なる文化で生活していた外国人の人材が、日本企業や日本の風習になじめるかという点も心配されます。しかし、日本企業の文化や習慣を理解してもらい、相手側の文化も理解できるような社内プログラムを設けることでこの課題はクリアできます。具体的には、ゴミ出しや掃除、買い物等の生活面から、電気・ネット回線・通信といったインフラ面の違いに加えて、食文化の違いを伝えたり、一緒に時間を過ごす多文化交流イベントの開催などが効果的です。実際、メルカリやオンデーズでは生活面でのサポートや社内交流を通じて外国人エンジニアの日本文化適応の手助けをしています。互いの文化を尊重し合う風土づくりが定着すれば、文化の壁は次第に低くなります。
- 社内受け入れと定着支援: 外国人を受け入れる社内体制や、せっかく採用しても短期間で辞めてしまわないかという懸念もあるでしょう。これに対しては、メンター制度の導入や定期的な面談によるフォロー、明確なキャリアパスの提示などが有効です。例えば、入社後一定期間は先輩社員がサポート役となり相談に乗る、評価面談でフィードバックをこまめに行う、将来的な昇進・活躍の道筋を示すなどの取り組みです。こうした受け入れ態勢を整えることで、外国人社員も安心して長期的に能力を発揮でき、結果的に企業の戦力として定着してくれる可能性が高まります。
以上のように、適切な準備とサポートがあれば外国人IT人材の採用ハードルは決して乗り越えられないものではありません。むしろ最初の一歩さえ踏み出せば、多様な人材を活かす組織づくりの中で社内にも新たな学びや成長が生まれ、プラスの循環が生まれるでしょう。
まとめ:外国人採用はダイバーシティ推進そのもの

外国人IT人材の採用がもたらすビジネス価値とイノベーション効果について見てきました。多様な人材チームは新しい発想と適応力でイノベーションを生み、企業の競争力と収益性を高めることがわかります。現場の事例からも、言語や文化の壁を乗り越え多様性を受け入れた企業ほど、ユニークなサービス展開やグローバルな市場進出で成果を上げています。
とはいえ実際に外国人採用に踏み出す際には不安もつきものです。しかし、本記事で述べたようなデータが示すメリットや具体的な成功例、そして懸念への対策を踏まえれば、一歩踏み出す価値は十分あるのではないでしょうか。将来の成長戦略の一環として、ダイバーシティ推進による中長期的なメリットに目を向けることが重要です。
もし「自社で外国人を採用して本当にうまくいくだろうか」「何から手を付ければいいのか」とお悩みであれば、専門家による「外国人採用・ダイバーシティ推進」に関する無料相談やセミナーを活用してみるのも一つの方法です。無料相談では自社の状況に合わせた具体的なアドバイスや事例紹介が得られるため、懸念の払拭や採用戦略立案のヒントにつながるでしょう。ぜひ情報収集や専門家の知見も取り入れながら、貴社の未来を拓く多様な人材活用の第一歩を踏み出してみてください。