ネパールには「ダサイン」や「ティハール」などの数多くの祭りがありますが、その中でも特に美しく、奥ゆかしいのが「ティハール」です。「光の祭典」とも呼ばれるこの祭りは、カラフルな光と色彩に満ちた5日間にわたるネパール国内の一大イベントです。本記事では、ティハールについて詳しく解説するとともに、10月21日(火)に大阪・金剛で開催されたティハールのイベント(ランゴリ制作)での体験をお伝えします。ティハールの意義や美しさ、そしてネパールの豊かな文化への理解に繋がれば、幸いです。

ティハールとは?光と愛の5日間
ティハールは、光と愛をテーマにしており、ネパールで最も重要なヒンドゥー教の祭りの1つです。「ヤマパンチャク」または「ディーパワリ」と呼ばれることもあり、活気のある儀式や家族の絆、自然との調和などが特徴的です。
2025年は、10月19日から10月23日までの5日間にわたって祝われました。ティハールは、収穫が終わる時期と重なることが多いようで、自然や作物への「感謝」と「豊かさ」をより一層感じます。この5日間は、ネパール国内の家や道が、光や音楽、喜びで溢れ、町はとても賑やかになります。人々は、色とりどりの光と色彩を楽しみ、女神ラクシュミを崇拝し、伝統料理を食べ、そして人間と動物、兄弟姉妹などの強い絆を改めて感じ、大切にします。
もう1つ、ネパール最大のヒンドゥー教の祭りと言われるダサイン(2025年は9月22日~10月1日)があります。こちらは、悪に対する善の勝利を祝う祭りです。その一方で、ティハールは団結や繁栄、そして人間や動物、神々の調和を象徴する祭りとなっています。ネパール国内のヒンドゥー教徒だけでなく、仏教徒やさまざまな民族グループが祝います。
ティハール体験:光と色に彩られた特別な時間
今回筆者は、ティハールの中でも3日目(ガイ・ティハールとラクシュミ・プージャの日)に行われるランゴリ制作のイベントに参加してきました。筆者にとって、ネパールの伝統文化に初めて触れる貴重な体験でした。イベントでは主に、伝統的な食べ物(セルロティとアチャール)を堪能し、ランゴリ作りやティカ体験など、ティハールの中心的な要素を体験しました。
ネパール伝統の味:セルロティとアチャール
まず初めに、伝統的なネパール料理であるセルロティとアチャールを味わいました。セルロティは米粉で作られたドーナツのようなもので、外はカリッと、中はフワッとした食感が特徴です。アチャールはネパールのお漬物で、セルロティに添える薬味のような役割を果たします。
セルロティは上品な甘さで食べやすく、独特の食感が癖になり、あっという間に食べてしまいました。アチャールと一緒に食べると、その酸味がアクセントとなり、一度で二度の美味しさを感じました。この日は2種類のアチャール、バナナの花のアチャールと、大根とにんじんのアチャールを味わいました。バナナの花を初めて食べたのですが、スパイスが効いており、とても美味しかったです。
セルロティとアチャールは、ダサインやティハールなどの特別な時に食べる料理です。熱々のチャイと一緒にいただき、身体が温まりました。ティハールの時期ならではの食体験に、すっかり魅了されました。

色鮮やかな祝福:ランゴリ作りに挑戦
食事の後は、いよいよランゴリ作りに挑戦です。ランゴリとは、色とりどりの粉を使って描く装飾模様で、特に女神ラクシュミを家に招くために作られます。
自分自身が美しいと思うデザインを描くよう指示され、赤や青、緑など色とりどりのチョークの粉のようなものを用いて描きました。花のような模様や複雑な模様など、参加者それぞれが思い思いに描いていました。また、複数の色を使う人や、2色だけでシンプルに描く人など、個性が出ており、制作していてとても心が躍りました。
イベントの参加者は、複数人で協力しながら取り組み、「どんな形にしようか」「色はどうしようか」など相談しながら、和気あいあいとした雰囲気の中で制作していました。また、それぞれの祈りを込めて丁寧に制作する眼差しがとても印象的でした。筆者はJapalのロゴを描き、ネパール人と日本企業を繋ぐ架け橋となれるように祈りを込めて、周りに花びらや「J(Japan)」と「N(Nepal)」を加えて華やかに仕上げました。このように見ると、Japalのロゴはとてもカラフルですね。

女神を迎える準備:光と祈りの時間
ランゴリが完成した後は、その周りにろうそくを置き、お祈りをしました。女神ラクシュミを家に招き入れるために、ランゴリから続く足跡も描きました。ろうそくの明かりに照らされたランゴリはとても幻想的で、参加者全員を温かく包み込むような雰囲気がありました。ラクシュミの道筋を足跡で作ることで、女神への敬意と期待を感じることができた特別な時間でした。

ティカ体験:色の持つ意味と祝福
皆さん、ネパールの方の額の間に、小さな印を見たことはありますか?これはティカという印です。最後に、ティカを体験することができました。ティカとは、主にインドやネパールの宗教儀式で額(眉毛の中間の位置)に塗る色付きの印です。今回は黄色と赤色のティカをつけてもらいました。ティカの色にはそれぞれ意味があり、赤色はエネルギーや力、黄色は知恵や純潔を表します。これらを混ぜて額につけるのです。付けてもらう際に少し冷たかったのですが、とても神聖な気持ちになり、元気をもらいました。
イベントで体験したのは、朝のお祈りの時など日常的に使用するティカでしたが、ティハールの時、特にバイ・ティカの日には特別な7色のティカを使用するそうです。7色のティカの意味は以下の通りです:
- 白:純粋さと平和
- 赤:愛・エネルギー・強さ
- 緑:生命・成長・調和
- 黄:知恵と忍耐
- 青:守護と神聖な力
- オレンジ:決意と精神性
- 紫/ピンク:愛情と優しさ
それぞれの色に深い意味があり、これらが組み合わさることで、包括的な祝福と保護を表しているのです。次回、ネパールやインドの方とお会いするとき、ティカの色を意識してみるとその方の祝福を理解できるかもしれません。

ネパール文化の豊かさに触れて
筆者は毎日ネパール人と一緒に仕事をしていますが、今回のティハール体験は、筆者にとって新たなネパール、そしてヒンドゥー教の文化との出会いでした。神様を大切にする姿勢や、人々の交流、家族への愛を重視する価値観など、とても神秘的で心温まる文化に触れることができました。
ネパールの方々がこのお祭りを大切にしているという思いも強く感じられました。様々なものを讃え、感謝する姿勢は、現代の忙しい生活の中で忘れがちな大切な価値観を思い出させてくれました。これこそ、異文化に触れる価値の一つかもしれません。
セルロティとアチャールの美味しさ、ランゴリを作る楽しさ、ろうそくの灯りが作り出す幻想的な雰囲気、ティカによる祝福の意味など、五感で体験できた貴重な時間でした。短い時間でしたが、ティハールやネパールの文化に触れ、学ぶことができたと感じています。
ティハールの5日間:日ごとの意味と儀式
ティハールは5日間続き、それぞれの日に特別な意味と儀式があります。2025年のスケジュールとそれぞれの意義を見ていきましょう。
1日目:カーグ・ティハール(カラス崇拝)
ティハールの初日は「カーグ・ティハール」と呼ばれます。この日は、カラスが崇拝されます。ヒンドゥー教では、カラスは死の神ヤマの使者と考えられているそうです。人々は、穀物やお菓子、米などを供え、ヤマの怒りを鎮めます。そして、家庭の調和を求めて祈ります。これにより、悪い出来事(不運や死など)を遠ざけることができると信じられているのです。このように、ヒンドゥー教の神話では、カラスは神と関連付けられることが多く、現世と神々の間にメッセージを伝える役割であると考えられています。カラスの鳴き声は、供物や祝福を受け入れてくれたことの象徴だそうです。
2日目:ククル・ティハール(犬崇拝)
2日目は「ククル・ティハール」と呼ばれ、犬を崇拝する日です。ネパールの文化では、犬は忠誠心と友情の象徴とされていることに加え、カラスと同様に死の神ヤマの使者であり、死後の世界に導く門番とも考えられています。この日、犬はティカ(額に付ける赤い朱のマーク)やマリーゴールドの花輪で飾られ、高級なドックフードなど、普段よりも特別な食事が与えられます。
この祝いは家庭で飼われている犬に限定される訳ではありません。野良犬などのすべての犬が愛や感謝の気持ちで敬われます。「人間がすべての動物に対して持つべき思いやり」を改めて感じることができます。
3日目:ガイ・ティハールとラクシュミ・プージャ(牛崇拝と女神ラクシュミ崇拝)
3日目は、牛が母性と繁栄の象徴として崇拝されます。ヒンドゥー教では、牛は神様であると考えられています。牛は花輪とティカで飾られ、感謝の印として食事が与えられます。彼らも普段よりも高級な草や果物を食べるそうです。
夕方になると、女神ラクシュミを歓迎するために、ラクシュミ・プージャ(礼拝)を行います。ラクシュミは、富と幸運の神であり、人々は、家をオイルランプやキャンドル、色とりどりのランゴリ模様で美しく飾り付けます。ランゴリとは、家や床に描かれる装飾アートです。その他にも、伝統的な歌と踊りの儀式であるデウシとバイロも行われます。夜に行われ、グループで家を訪ねて回り、幸運と繁栄を祈る歌を歌います。そして、訪問先から贈り物や食べ物などをもらいます。ハロウィーンのトリック・オア・トリートに似ていますね。デウジとバイロについては、5-2で詳しく解説します。
ラクシュミ・プージャの準備は早朝から始まります。人々は前向きさと繁栄を呼び込むために家を掃除したり飾り付けたりします。5日間の中でも最も華やか1日であると言えます。今回筆者は、この3日目に行われるランゴリ制作のイベントに参加してきました。
4日目:ゴル・ティハールとゴヴァルダン・プージャ(牡牛崇拝と山の象徴)
4日目は「ゴル・ティハール」と呼ばれ、牡牛を称える日です。ネパールは、農業と観光業が主な産業であり、牡牛は農業に欠かせません。2日目の犬や、3日目の牛と同じように、牡牛はティカや花輪で飾られ、勤勉さへの感謝の印として特別な食事が与えられます。3日目の牛は、女神ラクシュミの乗り物として、そして富や繁栄の象徴としての意味を持つのに対し、4日目の牛は、農業や生活の守護神としての意味を持ちます。
この日は「ゴヴァルダン・プージャ」も行われます。これは、クリシュナ神が集中豪雨から村人を守るためにゴヴァルダンの山を持ち上げたという神話に基づく儀式です。そのため、この日は自然や大地、農業の恵みに感謝する日とされています。牛糞で小さな山を作り、祈りを捧げます。
ネパールの民族の1つであるネワール族にとっては、「マ・プージャ」(自己崇拝の儀式)を行う特別な日でもあります。ネパールのサンバット暦の新年の始まりに行う儀式です。「マ(Mha)」はネワール語で「自分」や「身体」を意味し、「プージャ(Puja)」は「礼拝」を意味します。自分自身を敬い、精神を浄化させるのです。
5日目:バイ・ティカ(兄弟崇拝)
最終日は「バイ・ティカ」と呼ばれ、兄弟・姉妹の絆を祝う日です。姉妹は兄弟の額に「サプタランギ・ティカ」(7色のティカ)を塗り、長寿と繁栄を祈ります。また、マリーゴールドとマカマリ(グローブ・アマランサス)の花輪も送ります。これは守護と祝福を象徴します。兄弟たちはお礼に贈り物などを贈ります。また、家族全員でごちそうを楽しみ、愛と団結の気持ちで祭りを締めくくります。これによって、家族の絆が深まり、大切な思い出となります。家族が集まる大切な日でもあると同時に、友情や人間関係の絆も深める日です。
ティハールの深い意義:神話と伝説
ティハールには様々な神話や伝説が関わっています。例えば、バイ・ティカに関して有名な伝説があります。ある時、姉妹が兄の額にティカをつけていると、死の神ヤマの使者が現れ、兄の魂を奪いに来ます。姉妹は、ティカを終えるまで待つように頼み、儀式の間、使者にも祈りを捧げました。その敬意と献身に喜んだ使者は、兄の命を救いました。これにより、姉妹からの愛は兄の死を遅らせるという信仰ができました。また、死の神ヤマと彼の妹ヤムナに関する話も有名です。ヤムナはヤマを自宅に招き、彼の額にティカを塗り、繁栄と長寿を祈りました。ヤマはこのようなヤムナの愛に感動し、バイ・ティカの日に姉妹からティカを受け取った兄弟は早すぎる死から守られると宣言しました。これらの話がバイ・ティカの起源とされています。
また、女神ラクシュミに関する物語もとても重要です。ティハールの期間中には女神ラクシュミが富と繁栄を祝福するために、各家庭を訪問すると信じられています。これが、家がオイルランプとランゴリで飾られる理由です。クリシュナ神がゴヴァルダンの山を持ち上げて村人を救った物語も、保護と感謝のテーマを強調しており、これがゴヴァルダン・プージャです。
これらの神話や伝説によって、ティハールは神聖なものとなっているのです。そして、愛、感謝、保護という深いテーマとも結びついています。実際に体験したラクシュミを歓迎するための儀式も、こうした伝統に基づいていることを実感しました。
ティハールの重要な要素:花、光、踊り

他にも、ティハールには欠かせない要素がいくつかあります。その1つが「花」です。ティカと同様にそれぞれに意味があります。例えば、マリーゴールド(サヤパトリ)はポジティブ、純粋、生命を表し、グローブ・アマランサス(マカマリ)は不死と永続的な関係を象徴します。これらの花はバイ・ティカの期間にとても重要です。
また、家や通りはオイルランプ、キャンドル、電灯で美しく飾られ、色とりどりの粉と花で作られたランゴリ模様が祭りの魅力を引き出します。筆者が作ったランゴリも、ろうそくの灯りに照らされると幻想的な雰囲気を醸し出していました。
デウシとバイロという伝統的な歌と踊りもティハールの重要な要素です。ラクシュミ・プージャの際に行われます。子供から大人までのグループが、歌い踊りながら近所の家を訪問して回ります。伝統的に男の子はデウシを、女の子はバイロを歌いますが、最近では性別に関係なく参加することや、現代的なアレンジも増えているようです。歌詞には、「富の女神ラクシュミが家に幸運をもたらすように」という祈りが込められています。
おわりに:光の祭典を通して深まるネパール理解
ティハール、この「光の祭典」は、家族やコミュニティを団結させるネパール文化の活気に満ちたお祭りです。まばゆいばかりの光、美しい伝統、心のこもった儀式を通して、宗教や社会的背景を超えた祝福と喜びの時間を作り出します。
今回のイベントを通じて、ティハールがただの祭りではなく、人々の暮らしや価値観と深く結びついた文化的行事であることが分かりました。伝統と現代性が融合し、幸福と精神的なつながりを共有する瞬間を生み出すネパール文化の本質を少しだけ理解できたような気がします。
ネパールを訪れる機会があれば、ぜひティハールの時期に合わせて計画してみてはいかがでしょうか。光に包まれた通り、色とりどりのランゴリ、温かい家族の交流など、一生の思い出になる体験ができることでしょう。また、日本に居ながらも、今回のようなイベントに参加すれば、ネパール文化の豊かさに触れる機会があります。是非、皆さんも一度体験してみてください。