「またできてる!」駅前を歩くと、「インドネパール料理屋」が増えていると感じることはありませんか?看板にはターバンを巻いたシェフ、そして「ナン食べ放題!」の文字。良い香りに誘われて入ってみると……お客さんはあなた一人。「これで本当にやっていけるの?」と疑問を抱いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、ネパール人が経営するカレー屋さんの経済学の謎を、ユーモラスに解き明かします。

日本に広がる「インドネパール料理屋」のからくり
日本の街角を歩いていると、よく目にするのが「インド・ネパール料理」と書かれた看板です。駅前、商店街、郊外のロードサイドまで、その数は数え切れません。赤や黄色の鮮やかな色彩で「CURRY」と書かれた看板から漂うスパイスの香りは、思わず足を止めてしまいます。しかし、不思議なことに店内は閑散としていることも少なくありません。平日のランチタイムでも数名のサラリーマンが一人でナンを味わっている光景が見られる程度です。それなのに、なぜこうしたカレー屋は数年、十年以上と存続し続けるのでしょうか。
ネパール人のユニークなネットワーク
まず考えられる理由の一つが、ネパール人経営者のユニークな生存戦略です。彼らは、日本で働くための資格として「技能ビザ」を取得しています。「技能ビザ」を維持するには、働く場所や職種が必要で、飲食店、とくにカレー屋はその条件を満たす場所となります。つまり、店自体は「商売」だけではなく、在留資格維持の拠点としても機能していると言われていることもあるようです。ここで強調すべきことは、もちろん、彼らは美味しいカレーを提供する「プロ」でもあります。
「商売」を上手く回していくために、ネパール人のコミュニティとネットワークが密接に関わっています。同郷者を紹介し合い、食材の仕入れルートや調理ノウハウを共有することで、効率化を追求し、個々の店の経営リスクを最小化しています。例えば、ターメリック、クミン、コリアンダーなどのスパイスは、カレー、炒め物、スープなど複数のメニューで同時に使用できます。ナンの材料も粉と水、酵母で低コストかつ大量生産が可能で、ランチの食べ放題でも利益を確保できます。
このため、表面上は閑古鳥が鳴いていても、裏でネパール人のコミュニティ経済が回っているため、潰れにくい仕組みなのです。たとえば、ある東京の小規模カレー屋では、昼の売上は一日5,000円程度しかなくても、夜は宴会貸し切りの場所を提供する、或いは同郷者の送金サービス等で月間家賃を十分にカバーしているというケースもあるようです。
ネパール人の巧みなPR力
ネパール人が経営するカレー屋の「存在感」は単なる食の提供にとどまりません。看板や店名に「インド」「カレー」と掲げることで、一般の日本人にとって親しみやすく、敷居が低い、つまり入りやすく感じられるのです。
一般的なネパール料理として有名な「ダルバート」(ネパールの国民食、お米とスープ、カレーの定食)や「モモ」(水餃子)は日本人にとっては馴染みが薄く、その名を掲げても売上につながりにくいのです。しかし「インド」「ナン」と「カレー」といった馴染み深いテーマを前面に出すことで集客効果を高めています。この戦略的な看板表示も、長期存続の秘密の一つと言えるかもしれません。
ネパール人の堅実な経営
カレー屋は立地にも工夫があります。駅前や商店街の一等地に見えても、実は前の店が閉店した格安物件を活用するなど、家賃も考慮しています。また、親族や同郷者に従業員として住み込みで働いてもらうことで人件費を抑え、スパイスやナンの仕込みも効率化されています。こうして、客数が少なくても最低限の利益を確保できる経済構造が整っているのです。例えば、ナン1枚の原価は約50円、カレー1皿の原価は約150円程度です。ランチセットを900円で提供した場合、原価率は約22%。低原価で高回転を狙うため、少人数でも利益が残ります。
ネパール人が経営する日本全国のカレー屋は、単なる飲食店ではなく、「技能ビザ保持者の就業拠点」、「ネパール人コミュニティ経済のハブ」、「低コスト運営」といったノウハウと強いネットワークで、街角に生き続けています。次章では、この「インド料理なのにネパール人」という現象の背景を、より詳しく探っていきます。
ネパール人とカレー屋の関係

ネパール人がカレー屋を開く理由
- ネパールにおけるカレー文化が親しみやすいこと
- 技能ビザの取得が「調理分野」で比較的容易であること
日本で「カレー屋ならやっていける」という成功モデルがすでにネパール国内に定着しており、彼らにとってカレー屋は「飲食店のアルバイト感覚」ではなく、「人生をかけた出世コース」という未来そのものという感覚があるようです。
ネパール人がカレー屋を開くビザのからくり
技能ビザとカレー職人:実は「技能実習」ではない?
カレー屋でネパール人スタッフを見て、「あれ?技能実習生?」と思うことも少なくありません。しかし、彼らは「技能ビザ」の保持者です。ここで、よく混同される「技能ビザ」と「技能実習ビザ」の違いを見てみましょう。
「技能実習ビザ」とは
「技能実習ビザ」は、日本の産業技術や技能を学ぶことを目的とした制度です。建設、農業、介護など、幅広い分野で外国人が学びながら働くことが認められています。例えば農家で米の収穫や、介護施設で入浴介助を学ぶケースが典型です。しかし、飲食店の厨房でカレーを作る場合は、原則として技能実習制度の対象外です。「ナンを焼くのも、カレーを煮込むのも学ぶだけ」ではなく、実務として働く必要があるからです。
「技能ビザ」とは
一方、「技能ビザ(調理師枠)」は、外国料理の専門技能を持つ人が日本で就労できる資格です。ネパール人のカレー職人は、この技能ビザを使って個人経営のカレー屋や小規模飲食店で働けます。「技能ビザ」のポイントは以下の通りです。
・対象分野が明確
外国料理の調理技術に特化しています。ナンの焼き方、カレーのスパイス配合、厨房の衛生管理などが求められます。10年の実務経験が求められますが、2019年に外食業が特定技能の対象分野となり、10年経験がなくても試験合格で飲食店に就労できるケースもあります。
・就労が前提
単なる学習ではなく、店舗での実務が認められています。
なぜ混同されやすいのか
ビザの名称や職場環境が似ているため、誤解されることがあります。例えば、厨房で一生懸命ナンを焼きながら、従業員として働いている姿は、「技能実習生」とほとんど同じに見えます。また、「技能ビザ」取得のために語学学校や研修施設を通すこともあり、「教育過程がある=技能実習」と思われがちです。
しかし、法律上のステータスや在留資格の目的は全く異なります。技能実習は「学びながら働く」、技能ビザは「専門職として働く」。この違いを理解すると、なぜネパール人カレー職人が少人数の店でも長期的に日本で働き続けられるのかが分かります。
ちなみに、技能実習ビザと技能ビザを混同している日本人も多く、ある居酒屋で「君は技能実習生?」と聞かれたネパール人スタッフが、「いえ、私は技能ビザでプロです」と返して、厨房の空気が一瞬凍った、なんてエピソードもあります。法律上の違いを知らないと、ちょっとしたジョークにもなってしまうのです。
数字で見る在日ネパール人と技能ビザのリアル

ネパール人の在留状況
日本におけるネパール人の在留者数は、近年急速に増加しています。2024年末時点で、ネパール国籍の在留者は233,043人に達し、これは前年同時期と比較して約56,707人(約23.2%)の増加1となっています 。また、同様にネパール人留学生数も直近では約7万人規模となり、さらには、同データではブラジルを抜いて在留外国人国別ランキングで5位にランクインしています。
| 国籍・地域 | 総数 | 家族滞在割合 |
| 中国 | 87.3万人 | 9.5% |
| ベトナム | 63.4万人 | 10.2% |
| 韓国 | 40.9万人 | 2.2% |
| フィリピン | 34.2万人 | 1.8% |
| ネパール | 23.3万人 | 25.8% |
※ 出入国在留管理庁公表資料を基に当社作成(2024年末調査)
この急増の背景には、ネパール国内の経済状況や教育機会の限界、そして日本の受け入れ制度の整備が影響しています。特に、ネパールの若者にとって、日本は高い給与水準と安定した雇用機会を提供する魅力的な国となっており、留学や就労を目的とした渡航者が増加しています。
「技能ビザ」の現状・取得と要件の課題
日本における「技能ビザ(調理師枠)」は、外国料理の専門技能を持つ人が就労するための在留資格です。法務省在留外国人統計(2023年度末)では、技能ビザ保持者は42,499人となっており 、その多くが飲食業界で活躍しています。
ネパール人もこの技能ビザを取得し、日本の飲食店で働くケースが増加しています。特に、インド・ネパール料理店では、ネパール人シェフが中心となって店舗運営を行っており、ナンやカレーの調理を担当しています。技能ビザを取得することで、就労の安定性が増し、長期的な在留が可能となるため、ネパール人にとっては魅力的な選択肢となっています。
「技能ビザ」を取得するためには、一定の条件を満たす必要があります。調理師の場合、外国料理の調理技術に関する専門的な知識と技能を有し、10年以上の実務経験があること、かつ日本語能力が求められます。また、就労先となる飲食店が、「技能ビザ」を受け入れる体制を整えていることも重要です。
しかし、「技能ビザ」の取得には一定のハードルがあり、特に日本語能力の向上や専門学校での学習には時間と費用がかかります。また、「技能ビザ」の取得後も、就労先の確保や労働環境の整備など、さまざまな課題が存在します。
<留学生から「技能ビザ」への移行>
ネパールからの留学生も増加しており、2024年には6.3万人を超えています 。留学生として日本に滞在しながら、アルバイトで飲食業に従事するケースが一般的です。その後、技能ビザの取得を目指して、専門学校での学習や実務経験を積むことで、就労資格を得る道を選ぶ者が増えています。このように、留学生から技能ビザへの移行は、ネパール人にとって日本での就労を実現するための重要なステップとなっています。
「技能ビザ」取得に求められる日本語要件
「技能ビザ」に求められる日本語能力は、日常会話レベルができることが望ましいと言われています。厚生労働省や出入国在留管理庁のガイドラインでは、厨房での安全や衛生管理、従業員との連携のために、日本語での基本的な指示理解・会話能力が求められます。厨房では火や刃物を使うため、指示を理解できないと事故につながります。必ずしもJLPT(Japanese Language Proficiency Test)と呼ばれる日本語能力試験の資格が必要というわけではありませんが、JLPTが定めているレベルの初級(N4)から中級(N3)程度の会話力があると申請や就労がスムーズです。
申請時の審査では、日本語能力を確認される場合あります。例えば、就労先の雇用契約書や、技能証明書とともに、日本語での業務遂行能力を証明する資料が求められたり、面接や書面で簡単な会話・指示理解能力の確認が行われたりする場合もあります。実務での安全確保の観点から見ると、「技能ビザ」には基本的な日本語理解能力が事実上必須となっています。
「技能ビザ」による安定した就労
「技能ビザ」は、在留資格としての安定性を提供します。例えば、ある東京のカレー屋では、ネパール人オーナーが「技能ビザ」を持つことで、経営が軌道に乗るまで最低3年は日本で働くことが保証されます。これは、短期滞在や観光ビザでは実現できない安定性があります。
在留資格に興味がある方は外国人採用に必須!在留資格の徹底解説―技能実習・特定技能・技人国の徹底比較 Hello Nepalもぜひご確認ください。
他のアジア諸国と比べたネパール人のビザ事情

日本でカレー屋を営むネパール人シェフの存在はユニークですが、これを理解するには、他のアジア諸国におけるビザ取得傾向との比較が欠かせません。ビザ事情について、ネパール人のケースと主要アジア諸国のケースを比較してみましょう。
フィリピンは介護・看護業界で強い存在感
フィリピン人が日本で働く場合、多くが 特定技能(介護)や介護福祉士の資格取得ルート で来日します。
技能実習制度:フィリピン人は介護や建築で多く受け入れられており、2023年の統計では全技能実習生の15%以上をフィリピンが占めています。
特定技能ビザ:介護分野で特定技能1号を取得するケースも多く、日本全国で介護職として働く例が増加しています。つまり、フィリピン人は「人材不足のケア分野」が主要な進出先であり、飲食業への参入は比較的少ない傾向にあります。
ベトナムは製造業・建設業への進出が主流
ベトナムからの来日者は、技能実習を通じて製造業や建設業に従事するケースが圧倒的に多いです。特に自動車部品工場や建設現場などでの実習受け入れが活発になっています。また、技能ビザ(調理師枠)はほとんど利用されておらず、飲食業はマイノリティです。このように、ベトナム人にとっての日本は「製造と建設の訓練場」として見られる事が多く、飲食業はあまり関連しない領域となっています。
中国は技能実習・留学・就労系ビザに分散
中国人の在留者数は日本でも最大級ですが、ビザの内訳は多様です。留学生:学びたい人が多く、日本語学校や大学への進学が盛んです。
技能実習生:製造や介護、建設など多様な分野に従事しています。
専門職(技術・人文知識・国際業務など):企業への就職ルートが多くあります。
このように、中国人は「教育・技能実習・高度専門職」という 三本柱 のルートを持っており、技能ビザ(調理)を使ってカレー屋を開くという事例はほとんど見られません。
韓国・台湾・香港は就労・留学・技能実習が中心
これら地域の人々は、日本との文化的・経済的つながりが強く、主に次のようなルートで来日します:
留学系:大学や専門学校への進学。
就労ビザ:日本企業への就職や貿易関連職。
技能実習:農業や介護など限定的。
ネパールのように技能ビザを使って日本でカレー屋を開くケースは、世界的に見ても非常にユニークだということが分かります。
カレー屋が消えたら日本はどうなる?

ここからは筆者の空想も入りますが少しお付き合いください。もし、ある日、街からインド・ネパール料理屋がすべて姿を消したら…と想像してみてください。カレーの香りも、ナンを焼く窯の音も、タンドリーチキンの赤い輝きもなくなってしまったら…という世界です。
これはカレー好きの筆者の想像ですが、最初の1週間――日本人は「まあ、ちょっと寂しいね」程度の反応を示すかもしれません。しかし2週間も経つと、「昼休みにナンを食べられない…」と嘆くサラリーマンが急増し、SNSでは「#カレー難民」(あくまで冗談の表現です)というハッシュタグがトレンド入りするかもしれません。さらに、「ネパール人のコミュニティ」への影響も心配ですね。
インド・ネパール料理屋は単なる飲食店ではなく、外国人と日本人が自然に交流できる場であり、両国を超えた文化的多様性を肌で感じる機会でもあると感じています。少し大げさかもしれませんが、カレー屋の消滅は単に「ランチ難民」(あくまで冗談の表現です)を生むだけでなく、「異文化理解の後退」という副作用まで及ぼしかねないかもしれない、と感じるほど、日本でのネパール・インドカレーは大きな存在になっています。
ここまで「技能ビザ」や「人材紹介」といった真面目なテーマを、カレーを隠し味にして見てきました。日本は今後ますます外国人材を頼りにするケースが出てくるでしょう。その中で「カレー屋モデル」は、外国人が地域に根付く成功例として注目されるかもしれませんね。10年後、もしかすると「インド・ネパール料理屋」は「国際人材拠点」と呼ばれているかも。もちろん、すべてのネパール人がカレー屋を営むわけではなく、IT分野や介護など日本企業で働く人材も増えています。Japalではネパール人のIT人材の紹介・定着支援サービスを提供していますので、ご関心がある場合は一度Japal公式サイトにアクセスしてみてください。
まとめ:カレー屋はネパールと日本をつなぐコミュニティの拠点
日本各地で見かけるインド・ネパール料理店が「なぜ潰れないのか」という謎を、多角的に解き明かしました。ネパール人シェフたちは技能ビザという在留資格を武器に来日し、コミュニティ内の強いネットワークと家族的な協力体制によって低コストで店を運営しています。平日ランチは閑古鳥が鳴いていても、裏では同郷の仲間同士で支え合い、宴会や送金サービスなど多面的に収益を確保する独自モデルが存在するのです。また、技能実習ビザとの違いや特定技能制度にも触れ、彼らがしっかり日本のコミュニティになじみ、食文化発展にも寄与していることが分かります。カレー店は単なる飲食の場に留まらず、日本とネパールをつなぐコミュニティの拠点として、日本の多文化共生を足元から支えています。ユーモアを交えた本記事を通じて、身近なカレー屋さんに隠されたドラマと経済学に気づいていただければ幸いです。
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